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神戸地方裁判所 昭和27年(わ)338号 判決

被告人 高田博 外二名

主文

被告人高田博を懲役一年六月に、

被告人小林茂、同三島淳達を各懲役一〇月に処する。

但し、被告人等三名に対しいずれも本裁判確定の日から各三年間右刑の執行を猶予する。

被告人高田博より金五四、〇〇〇円を追徴する。

訴訟費用中、証人月岡源一郎に支給した分は被告人高田博の負担とし、証人和田広治、同畑円次、同今井常雄、同椿原敏雄、同新井隆四郎に支給した分は被告人等三名の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

第一、被告人高田博は、左記犯行当時総理府雇として、大阪特別調達局神戸監督官事務所に勤務し、同所工事課電気工事係員として、同所において施行する電気工事の見積、設計、関係書類の審査、工事の促進監督、検査等の職務に従事していたものであるが、

一、昭和二六年六月上旬頃、神戸市生田区海岸通一丁目神戸商工会議所内大阪特別調達局神戸監督官事務所廊下において、工藤電気株式会社が、当時、大阪特別調達局より請負い施行した同市生田区所在の日毛ビルおよび神港ビルの電気設備改修工事に関し、工事の監督、検査等につき、種々世話になつたことに対する謝礼の趣旨で供与されるものであることの情を知りながら、同会社社員青柳雄次から現金五、〇〇〇円を受け取り

二、(略)

三、(略)

四、(略)

五、(略)

六、(略)

もつて、それぞれその職務に関し賄賂を収受し、

第二、被告人高田博、同小林茂、同三島淳達は共謀の上、同年一一月二八日頃、神戸市長田区浪松町シエル石油株式会社構内において、同会社管理にかかる国有の鉄道軌条約一四屯を窃取し、

たものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)(略)

(弁護人の主張に対する判断)

被告人三名の弁護人等は、判示第二の事実につき、本件軌条はもと連合国占領軍が給油所として接収していたシエル石油株式会社の土地の用に供するため、同軍の要請により国が設置した国鉄鷹取駅の側線の一部で、その所有権は連合国軍に属していたところ、同軍はその側線につき、返還の手続をしないまゝその使用権を放棄して撤退してしまつたものであるから、本件軌条は当時無主物となつていたものである。したがつて被告人等の行為は無主物先占にほかならないから、被告人等はこの点については無罪であると主張するので、この点につき判断するに、判示第二事実に関する証拠として掲げた各証拠を綜合すると、本件鉄道軌条は、昭和二一年頃連合国占領軍の要請にもとずき、同軍の給油所として接収されていたシエル石油株式会社の土地と共用するため、国が終戦処理費の支弁によつて、国鉄鷹取駅構内より引いた元JSCO鷹取プラント跡側線の鉄道軌条の一部であること、その後昭和二五年頃、右シエル石油株式会社所有の土地は接収解除の上使用解除となつて同会社に返還されたが、同会社は右鉄道側線は不必要であるとしてその撤去方を求めて来たので、国鉄当局において事実上右側線の一部である本件鉄道軌条を撤去して、同会社の構内に積上げておいたものであること、ところで元来同会社は連合国所属の法人であつた関係上、当時連合国人所有の接収解除財産の処理につき、その処理を何れの官庁においてなすかにつきその取扱い方法が明らかでなかつたため、右会社の土地と共用されていた財産である本件鉄道軌条もその主管官庁が明らかでないまま、やむなく同会社の構内に放置された状態におかれていたものであることが認められる。

しかし、接収解除財産の附加物として該財産と一体となつたものは格別、単にそれと共用されていたに過ぎない財産で、国が終戦処理費によつて支弁されたものは、国がその財産につき所有権を有しているものといわなければならない(このことは前掲「使用解除財産処理要領」第九条第六号の規定から考えて明らかである)ところ、本件鉄道軌条は前記の如く接収解除財産であるシエル石油株式会社所有の土地と共用されるために国が終戦処理費の支弁によつて設置したものであることが明らかであるから、本件鉄道軌条の所有権は国に帰属するものであつて、たとえ前記のようにその主管官庁が明らかでなかつたとしてもそのことだけで国の所有権に何等の消長を来すものではない。

更に、本件鉄道軌条の占有状態をみるに、証人今井常雄の供述によると、本件軌条はシエル石油株式会社の構内に置いてあつたものであつて、当時同構内には守衛の詰所があり、同会社の守衛は交代で随時構内を巡回して構内の監視に当つていたことが認められるから、たとえ同構内に外部からの出入が容易であり且つ前記の如く該軌条が同会社の所有物ではなく、同会社の希望によつて撤去されたものであつたとしても、同会社の構内に存する限り、いまだなお同会社の管理下にあつたものと解するのが相当であるし、しかも本件犯行当時被告人等に不法領得の意思のあつたことは前掲各証拠によつて明らかであるから弁護人等の主張は採用しない。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 石丸弘衛 栄枝清一郎 原政俊)

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